1 はじめに
日本の人口再編が進行する中、地方からの若い女性の流出が静かに続いています。女性たちは都市、特に東京へと移動しています。ここでは、Vol.10〜Vol.17(Vol.13を除く)を振り返り、この問題の現状、影響や背景についてまとめます。地方都市における20代前半女性の流出は、生活環境や閉塞感、賃金格差などが複合的に影響していると考えられます。詳細はVol.10〜Vol.17(Vol.13を除く)を参照して下さい。最下段のリストから遷移出来ます。
2 現状:データから見る女性の地方離れ
まず、次のグラフ10-1で日本の三大都市圏の転入状況を見てみましょう。
グラフ10-1 三大都市圏の転入超過数(2021年)(再掲)

—沈む名古屋・大阪圏、東京圏の一強止まらず、ニッセイ基礎研レポート2022-05-16 *ブログ筆者による色の加工あり
東京圏のみが転入超過の状態が続いています。次に、男女別の転出超過数を見てみましょう。
グラフ11-1 38府県における「男性」の転出超過数(2021年、単位:人)(再掲)

―男女移動純減差が示す「ニッポン労働市場の大きな課題」ニッセイ基礎研レポート 2022-08-01
*ブログ筆者による色の加工あり
グラフ11-2 35都道府県における「女性」の転出超過数(2021年、単位:人)(再掲)

―男女移動純減差が示す「ニッポン労働市場の大きな課題」ニッセイ基礎研レポート 2022-08-01
*ブログ筆者による色の加工あり
男性(グラフ11-1)と大きく異なり、女性(グラフ11-2)の場合、地方都市から東京への転出は20代に集中し、特に20代前半の女性の転出が極めて顕著であることが判ります。女性の転出超過は、一部地域に限らず、多くの地方で共通して見られる傾向です。そして、グラフ10-1のように、彼女たちの多くは東京圏へと移動しているのです(詳細はVol.10, Vol.11を参照)。
3 影響:地方の未来を左右する性別人口の不均衡
転出超過地域では、女性の転出が男性よりも多い傾向があります。さらに、前段のように特に20代前半の女性が転出しています。結果として、若い世代の性別人口の不均衡(グラフ12-1)の要因の一つとなっていることが考えられるでしょう。このような状況は、地域社会の活力低下や経済の縮小を招く可能性があるのではないでしょうか(詳細はVol.12を参照)。
グラフ12-1 男性100人(20~39歳)に対する同世代の女性数(2023年)(再掲)

*ブログ筆者による網掛けの加工あり
4 背景:なぜ女性は地方を離れるのか
では、なぜ、若い女性は地方から流出するのでしょうか。グラフ14-1を見てみましょう。
グラフ14-1 東京圏への移住の背景となった地元の状況(2020年)(再掲)

*調査対象者:東京圏(一都三県)の外の出身で、東京圏の在住者
*出身地:15歳になるまでの間で最も長く過ごした地域 *調査期間:2020年9月18日 – 2020年10月8日
*インターネットによるアンケート調査 *複数回答 *ブログ筆者による色などの加工あり
理由としては、男女ともに「仕事」と「進学」が挙げられます。さらに女性の場合は、男性と比較して、「仕事」と「進学」だけでなく、「生活環境」が見逃せない要因として浮かび上がります(詳細はVol.14を参照)。さらに表17-1を見てみましょう。
表17-1 若年女性の人口流出に歯止めをかける条件(再掲)

〜東北の若年女性はなぜ東京を目指すのか?、〜東北活性研42
*複数回答 *調査実施:2020年 *ブログ筆者による網掛けの加工あり
特に、人間関係やコミュニティにおける「閉塞感」が、女性の転出を促進する可能性があることが、表17-1からも読み取れます(詳細はVol.17を参照)。
また、賃金格差も無視できない要因でしょう。グラフ16-1を見てみましょう。
グラフ16ー1 女性の都道府県別給与水準(2020年)

*きまって支給する給与:あらかじめ定められている支給条件・算定方法によって支給される給与で超過労働給与を含む
所定内給与:「きまって支給する給与」から「超過労働給与」を除いたもの
*ブログ筆者による網掛けなどの加工あり
地方の女性の賃金は、地域格差と男女格差が重なることで低く抑えられがちで、都市部への転出を後押しする要因する一つとなっているのではないでしょうか(詳細はVol.16を参照)。また、地方自治体の子育て支援策は、転出を決意した女性には響きにくいのが現状です(詳細はVol.15を参照)。
5 おわりに
地方からの若い女性の流出は、単に仕事や進学の機会を求めるだけでなく、より深い社会的・文化的な要因が絡んでいると言えるでしょう。地方の未来のために、賃金格差の是正、閉塞感の払拭、多様な生き方を許容する社会づくりなどを考えることが求められているのではないでしょうか。
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Vol.10 女性の地方離れ – 静かに進む日本の人口再編〜地方の都市も例外ではない – 加速する若年女性の東京集中
Vol.11 女性の地方離れ – 静かに進む日本の人口構造再編
Vol.12 女性の地方離れ – 静かに進む日本の人口再編〜地方の未来を左右する – 若年層の性別人口不均衡
Vol.14 地方を去る若い女性たち – その理由と未来への影響〜女性流出の要因
Vol.15 地方を去る若い女性たち – その理由と未来への影響〜子育て支援策の限界 – 見えてきた女性流出の本質
Vol.16 地方を去る若い女性たち – 賃金格差の現実と二重の不平等
Vol.17 地方を去る若い女性たち – その理由と未来への影響〜閉塞感とは?
参考文献
①天野馨南子(2022)2021年 都道府県・人口動態解説(下)―男女移動純減差が示す「ニッポン労働市場の大きな課題」ニッセイ基礎研レポート 2022-08-01 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=71919?site=nli
②天野馨南子(2022)都道府県・人口動態解説(中)—沈む名古屋・大阪圏、東京圏の一強止まらず、ニッセイ基礎研レポート2022-05-16 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=71100?site=nli
③橋本有子(2021)加速化する地方の人口減少・少子高齢化に歯止めをかける(その1)〜東北の若年女性はなぜ東京を目指すのか?、〜東北活性研42 https://www.kasseiken.jp/2021/02/02/vol42/
④新庄徹(2023)広域の人口移動から見た名古屋市・愛知県の現状と課題—住民基本台帳人口移動報告の分析から—、NUIレポートhttps://www.nup.or.jp/nui/user/media/document/investigation/r5/R5NUIreport.pdf
⑤総務省「住民基本台帳人口移動報告」https://www.stat.go.jp/data/idou/index.html
⑥愛知県(2023)愛知県まち・ひと・しごと創生総合戦略2023-2027 https://www.pref.aichi.jp/press-release/senryaku2023-sakutei.html
⑦内閣府(2023)地域の経済2023 https://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr23/cr23.html
⑧国土交通省(2021) 市民向け国際アンケート調査結果 https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudoseisaku_tk3_000107.html
⑨国交省(2022年)地方における女性活躍、国土審議会計画部会(第5回)資料 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/index.html
⑩内閣府政策統括官(2023)地域の経済 2023― 地域における人手不足問題の現状と課題 ― https://www5.cao.go.jp/j-j/cr/cr23/cr23.html
⑪厚生労働省(2024年)令和5年賃金構造基本統計調査 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/index.html