はじめに
近年、地方から都市部、特に東京圏への若い女性の流出が続いています。なぜ多くの若い女性たちは流出し、そして、一度地元を離れると帰還しないのでしょうか。ここでは、Vol.13、Vol.18、Vol.19から、地方から流出した若い女性が帰還しない現状とその背景について、わかりやすくまとめます。
詳細はVol.13、Vol.18、Vol.19を参照して下さい。最下段のリストからも遷移出来ます。
現状
地方から都市部への若い女性の流出は、男性よりも顕著な傾向があります。特に東京圏では、20代女性の転入超過が続いており、地方では若い世代の性別人口が不均衡になる現象が起きています。一度都市部に転出した若い女性は、男性に比べて地元に戻る意向が薄く、実際にも地元に戻らず都市部に定着するケースが多いことがデータから明らかになっています。東京都在住の20代女性に「将来地元に帰りたいか」と尋ねた調査では、「戻る意向なし」が全体の約半数を占め、男性よりも女性の方が地元回帰意向が低いという結果が出ています(Vol.13)。
分析
(1)地元回帰意向の低さと定着の実態
東京圏「外」出身で現在東京圏に在住する人々の約半数(47%)は、出身地で働く意向がありません。特に地方から東京圏へ移住した人々は、短期的な転入ではなく、長期的に東京圏での生活を視野に入れている傾向があります(Vol.18)。若い女性に限ってみても、東京圏に移住した女性は他地域の居住者と比べて現状への満足度が最も高く、生活基盤を都市部に築いていることがうかがえます(Vol.19)。
(2)満足度と今後の居住意向
他地方と比較して女性の転出者の多い東北圏出身を例として見てみましょう。東京圏に住む18~29歳女性の約7割が「非常に満足」「まあ満足」と回答し、他地域よりも高い満足度を示しています。転居を考えた場合も、東京圏居住の若い女性の約7割が再び東京圏をイメージしており(グラフ19-2参照)、地元や他地域への回帰意向は低いのが現状です(Vol.19)。
グラフ19-2 現在の暮らしを変える場合、イメージする転居先(再掲)

(3) 背景要因
地方からの流出要因として、仕事・進学の機会の不足だけでなく「閉塞感」など、より良いキャリア形成や多様なライフスタイルの実現を求める社会的・文化的要因が考えられます。都市部では就労や生活の自由度、自己実現の機会が多く、若い女性が「戻らない」選択を合理的に下していると考えられます(Vol.13、Vol.19)。
(4) 地方自治体の対応と課題
地方自治体もこの問題に対応し始めており、例えば兵庫県豊岡市では「若者回復率」という独自指標を設定し、若い女性のUターン促進や就労支援などの施策を展開しています(Vol.13)。しかし、都市部の魅力や利便性に対抗できる十分な環境整備や働き方改革が進んでいるとは言い難く、若い女性の流出・定着傾向に現状では歯止めがかかっていないと言えましょう(Vol.13、Vol.18、Vol.19)。
おわりに
地方から都市部へ流出した若い女性が地元へ帰還しない現象は、データから明確に示されています。背景には、都市部での高い生活満足度やライフスタイルの多様性、地方の機会不足や閉塞感など、複合的な要因が存在します。地方自治体も危機感を持ち、対策を講じていますが、現状では有効な施策を打ち出すには必ずしも至っていません。
今後、地方の持続的な未来には、単なる雇用創出や子育て支援だけでなく、若い世代が自己実現できる多様な選択肢と魅力的な地域社会の再構築が求められているのではないでしょうか。
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Vol.13 若い女性たちの選択 – 地元に戻らない未来を描く
Vol.18 東京圏に転入した人々の選択—データで見る地元回帰の可能性
Vol.19 東京圏に転入した若い女性たちの選択ー東京で生きる理由
参考文献
①市川宏雄 監修(2019)東京都の転入超過が8万人超、女性が男性を上回る ~20代女性が上京する理由とは?東京一極加速化を分析~、グローバル都市不動産研究所 https://www.global-link-m.com/company/institute/works/20190926296.html
②LIFULL HOME’S総研(2021)「地方創生のファクターX 寛容と幸福の地方論」https://www.homes.co.jp/souken/report/202108/
③長野県総合計画審議会 (2022)次期総合5か年計画の策定について(答申案) https://www.pref.nagano.lg.jp/kikaku/kensei/soshiki/shingikai/ichiran/sogokeikaku/plan3/documents/shiryou2_toushinan.pdf
④ 兵庫県豊岡市(2023)第2期豊岡市地方創生総合戦略(第5版)https://www.city.toyooka.lg.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/027/467/sougousenryaku_2-5.pdf
⑤国土交通省(2021) 市民向け国際アンケート調査結果https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudoseisaku_tk3_000107.html
⑥橋本有子(2021)加速化する地方の人口減少・少子高齢化に歯止めをかける(その2)~若い世代から積極的に選ばれる東北の実現に向けて〜東北活性研43 https://www.kasseiken.jp/2021/04/30/vol43/