前回の振り返り
Vol.14以降、地方から都市部、特に東京圏への若い女性の転出理由について考察しています。若い女性たちが都市部で新たな生活を始める理由については「仕事」や「進学」が影響していることが判りました。そして前回は、地方自治体の子育て支援策は、地方から転出する女性たちの選択には影響を与えていない可能性を見ていきました。
今回は「仕事」に関連して「賃金」に触れておきたいと思います。
今回の結論
(1)地方から若い女性が転出する背景には、賃金に関する格差が関係している。地方の女性の賃金には地域格差と男女格差が重なり、結果として若い女性が都市部に転出する一因となっている。
状況をデータで見ると・・・
Vol.14で示したように、若い女性たちが地方から都市部へと転出する主な理由の一つに「仕事」があり、「仕事」に関連する項目には「賃金」が含まれています(Vol.14、グラフ14-1参照)。今回はこの「賃金」に注目します。
グラフ16ー1 女性の都道府県別給与水準(2020年)
グラフ16-1は、都道府県別の女性の給与水準を示しています。総じて三大都市圏が高く、特に東京都(ピンク色の網掛け部分)の給与水準の高さが目立ちます。一方で、東京都以外の道府県の約7割が、東京都の75%前後からそれ以下の給与水準であり、地域格差のあることがわかります。
地方からの女性流出をテーマにした番組(クローズアップ現代)では、「都市部で就職しないと一人で生きていくのに必要なお金を稼げません(20代女性)」あるいは「(地元の企業は)実家から独立できないような給与しか出せない企業のみ。一人暮らしを目標にしていた私は上京を決意するしかありませんでした(20代女性)」など視聴者から現状を伝える声がありました。
物価の違いがあるにせよ、給与水準の実態や現状から「賃金」が地方からの若い女性の転出を促す一因となっている現実が浮き彫りとなりました。
ところで、グラフ16-1は女性に限定した都道府県別の給与水準を示しています。しかし、周知のように、賃金には男女格差があります。男性と同等の給与水準を持つ都道府県は存在せず、男性を100とした場合、全国平均で女性は74.8%になります(令和5年賃金構造基本統計調査)。つまり、地方の女性は男女格差に重ねて、地域格差を受けていることになります。こうしたことが若い女性の転出に拍車を掛けていると考えられます。
次回以降も、若い女性の地方からの転出原因について、掘り下げていきます。
まとめ
(1)地方から若い女性が転出する背景には、賃金に関する格差が関係している。地方の女性の賃金には地域格差と男女格差が重なり、結果として若い女性が都市部に転出する一因となっている。
参考文献
①厚生労働省(2024年)令和5年賃金構造基本統計調査 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/index.html
②国交省(2022年)地方における女性活躍、国土審議会計画部会(第5回)資料 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2023/index.html
③NHK(2024年6月17日放映)クローズアップ現代、女性たちが去っていく 地方創生10年・政策と現実のギャップ(映像資料)