Vol.15 彼女たちはなぜ、いなくなるのか?

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前回の振り返り

前回は、若い女性たちが地方から都市部、特に東京圏へ転出する理由について考察しました。その結果、地方からの転出理由男女共通「仕事」「進学」が大きな要因であることが分かりました。しかし、女性に関しては加えて「生活環境」が転出に影響していることが明らかになりました。

今回は、その影響の深い「生活環境」項目に注目し転出理由の考察をさらに深める予定でしたが、その前に、前回Vol.14でのグラフを別の角度から読み解いておきたいと思います。

今回の結論

(1)もし地方自治体の子育て支援策が女性の流出対応策であるならば、その期待に反して、地元から流出する女性たちの選択には影響を与えていない可能性がある。

状況をデータで見ると・・・

まず、グラフを見てみましょう。前回Vol.14のグラフ14-1の再登場です。

グラフ15ー1 東京圏への移住の背景となった地元の状況(2020年)(14-1の再掲)

グラフ出典:国土交通省(2021) 市民向け国際アンケート調査結果 *調査対象者:東京圏(一都三県)の外の出身で、東京圏の在住者 *出身地:15歳になるまでの間で最も長く過ごした地域 *調査期間:2020年9月18日 – 2020年10月8日 *インターネットによるアンケート調査 *複数回答 *ブログ筆者による色、星印などの加工あり 

グラフ縦軸の項目の下から2番目「子育て環境が良くないこと」(赤い星印)を見てみましょう。地方から東京圏への移住理由として、この項目を選ぶ女性は少ないことが判ります。つまり、このグラフからは、子育て環境がどうであれ、それが地域を離れるという女性の選択影響を与えることは、ほとんどないと読み取ることが出来ます。少なくとも東京圏(全国で最も多く女性が流入)へ向かう女性に対してはそれが言えるでしょう。

多くの地方自治体では、子育て支援策が積極的に行われています。子育て支援策は、地元に残ることを選択した女性たちの生活環境を向上させる効果はあるのでしょうが、その前段階で流出を選択する女性の決断を変える力は持っていないということになります。もし、この施策が女性の流出を食い止める目的があって行われているのであれば、その期待に反して効果は限定的である可能性がこのグラフからは読み取れます。

2024年6月17日放映のNHKクローズアップ現代では、地方からの女性流出がテーマとして取り上げられました。視聴者からは、「地元自治体がどれだけ子育てサポートを充実させても、地元に戻るつもりはない」「子育てができないから出て行くのではない」などの地方自治体による子育て支援に関する意見が散見されました。これらのコメントは、グラフ15-1が示す結果を裏付けており、子育て支援策は女性の流出を防ぐ決定的要因にはなり得ないことを裏付けています。

今回は寄り道をしました。次回以降も引き続き、地方から都市部への若い女性の流出の原因について、掘り下げていきたいと思います。

まとめ

(1)もし地方自治体の子育て支援策が女性の流出対応策であるならば、その期待に反して、地元から流出する女性たちの選択には影響を与えていない可能性がある。

参考文献

①国土交通省(2021) 市民向け国際アンケート調査結果https://www.mlit.go.jp/kokudoseisaku/kokudoseisaku_tk3_000107.html

②NHK(2024年6月17日放映)クローズアップ現代、女性たちが去っていく 地方創生10年・政策と現実のギャップ(映像資料)